[A case of Wernicke-Korsakoff syndrome who succeeded in returning to work despite the sequelae].

国内のアルコール依存症はICD-10による診断で約80 万人,久里浜式アルコールスクリーニングテストによる 問題飲酒者は約430万人と推定されている.アルコー ルは体内で乳酸となり,さらに好気性解糖を受けるには ビタミンB1が補酵素として消費される.つまり,アル コールを摂取すると多くのビタミンB1がいる.そのた め,アルコール依存症患者は長期の飲酒と不規則な食事 でビタミンB1の欠乏をきたしやすい. ウェルニッケ脳症はビタミンB1の欠乏による脳幹 部の小出血が原因で,アルコール依存症が大部分を占め る.症状は急性におこるせん妄,発熱,眼筋麻痺, けいれん発作などである.アルコールによる脳障害で あるコルサコフ症候群は,ウェルニッケ脳症の報告から 6年後の1887年にKorsakoffが記載した.症状は,健 忘,記銘力障害,失見当識,作話などである.ウェル ニッケ脳症の後遺症として現れるためウェルニッケ‐コ ルサコフ症候群ともよばれる.ウェルニッケ脳症を生 き延びた患者の84%がコルサコフ症候群を示す. 今回,製造業の大規模事業所の嘱託精神科医である筆 者は事業場内産業保健スタッフの一員として,記憶 障害の後遺症を抱えたウェルニッケ‐コルサコフ症候群 患者の復職を支援した.本症候群の復職支援を論じた国 内の報告を筆者は知らないため報告する.なお,プライ バシー保護の目的で論旨を損なわない程度に経過の記述 に修飾を加えた.