テロリズムは、非暴力的な政治制度が確立する現代で、稀少な「剝き出し」の政治的暴力である。ところが、この政治現象自体を理論的に解釈する試みは僅少である。この問題意識より、本稿は、カール・シュミット(Carl Schmitt)とエルネスト・ラクラウ(Ernesto Laclau)=シャンタル・ムフ(Chantal Mouffe)の政治理論を糸口に、テロリズムの概念的精緻化に取り組む。第1節では、先行研究の批判的な再検討を踏まえ、テロリズムの定義付けや概念化を阻む袋小路(①存在論と認識論、②「政治的」の諸問題)を概説する。第2節では、まず、「政治的」の諸問題に応答するため、シュミットの友敵理論と敵概念の類型化を基に、テロリズムを「絶対的な敵」に対する「政治的なもの」の究極的な発現と概念化する。次に、存在論と認識論の隘路を克服するため、ラクラウ=ムフの「敵対性」概念と言説理論を参照点に、テロ...